鈴木善次郎≪小泉信三肖像≫修復
本作品は、慶應義塾大学経済学部出身の画家、鈴木善次郎による小泉信三の肖像画である。現在は三田キャンパスの研究室棟に飾られており、このたび画面に白濁が確認されたことから、修復研究所二十一に保存修復処置を依頼した。
左横の写真は 修復後 額付き 表。
写真
修復前 額付き 表、修復前 額付き 裏、洗浄中、修復後 額付き 表、修復後 額付き 裏
保存修復作業記録
令和4年6月8日
有限会社 修復研究所二十一
所長 渡邉郁夫 担当 宮﨑安章
作業日:2021年11月29日~2022年6月8日
・作品
作者:鈴木善次郎
作品名:小泉信三肖像
制作年:1970年
材質:油彩・カンヴァス
寸法:72.8×60.8cm
・処置前の状態
ワニス層:なし。光沢はあるが絵具に混ぜた描画用油によるものと考える。
絵具層:画面全体に汚れが付着している。額縁のガラスが直接画面に触れており、一部がガラスに癒着して剥落している。
徽やチョーキング(白亜化)はなく、曇りガラスの影響で白濁したようにみえていた。
支持体:市販の画用キャンバスである。繊維は亜麻。キャンバスの張りが多少緩い。裏面は埃や塵などで多少汚れている。
木 枠:員数5本(中桟1本)市販の画用木枠。杉材。楔穴。楔はない。
額 縁:ガラスと画面は重ねた状態で入子に収まっており、完全に作品に触れている状態である。作品全体がチョーキング(白亜化)したように見えていたのは、 映り込みを軽減するために入れた曇りガラスが白濁したようなフィルターとなっていた。
・修復処置内容
1. 修復前、中、後をデジタルカメラで撮影し た。
2. 修復前の作品の状態を調査した。
3. 膠水を浮き上がった箇所に注入し、電気錢で加湿加圧して接着を行った。
4. 掃除機を使い裏面の清掃を行った。エタノールで殺菌処置を行った。
5.支持体周囲の耳部に亜麻布をホットメルト型アクリル樹脂接着剤(BEVA371シート)で
接着して耳補強をおこなった。
6. 画布を張り込んだ。ステンレス製のステップルで固定した。
7. 脱脂綿を巻いて 作った綿棒に希アンモニア水をしみ込ませて拭き取り除去した。
8.炭酸カルシウムと強化ワックスを練り合わせた充埴剤を詰め、 周囲の絵肌に合わせて整
形した。
9.チアベンザゾールを主成分とした防徽剤を塗布した。
10.溶剤型アクリル樹脂絵具を使って補彩を行った。
11. ダンマル樹脂ワニスを塗布した。
12. 厚さ3mmの低反射アクリル板(オプテューム)を内額の外側に収め、 作品との隙間を
確保した。
13. 裏蓋はラワン合板からポリカーボネイト板に交換した。
Date
2021年11月29日~2022年6月8日
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