【FromHome】-04 5月25日:「我々が直面したものは「休館」なのか―今の時代だからこそ楽しみを生み出せる」堀井千裕(2020/4/27)
Fromhome
慶應義塾大学アート・センターは、展覧会活動やアーカイヴの公開を行ってきました。キャンパスに隣接しながら門の外にあるという場所も含め、小さいながらも外に向かって開かれている学校の小窓的存在と言えます。
新型コロナウイルス感染拡大の影響下、展覧会やアーカイヴの公開を出来ない状況が続いていますが、スタッフはリモートで仕事を続け、アート・センターは活動しています。その中で、現状下における芸術や研究、自分たちの活動や生活について様々に考えを巡らせています。
そこで、所長・副所長をはじめスタッフからの日付入りのテキストを現在時点の記録として、ここにお届けいたします。
慶應義塾大学アートセンター
我々が直面したものは「休館」なのか―今の時代だからこそ楽しみを生み出せる
堀井千裕(事務嘱託)
私は2020年4月で、慶應義塾大学アート・センターの事務担当として3年目を迎えた。過去に大学職員としての実務経験はあったが、大学附属の研究センターしかもアートという専門的な分野に携わることは初めてで、未だ慣れないことも多く、アーカイヴ管理や博物館相当施設としての役割、展覧会やイベントの運営について、学芸員スタッフから学び、共に日々業務を進めている。東京五輪の開催を見据え、2020年度の企画は2019年度初期からすでに準備が始まっていた。次期展覧会は、アーティストとの打ち合わせも終え、会期を待つばかりと意気込んでいた矢先、社会情勢を大きく揺るがす問題が発生した。「新型コロナウイルスによる感染症」の世界的な拡がりである。私は、アート・センターの構成員として展覧会を運営する立場である一方、学芸員のような専門家ではない一般利用者という両方の視点を持つ者として一連の状況を振り返りたい。
まず、運営側から見た実情を紹介したい。今回の展覧会「SHOW-CASE project No. 4河口龍夫鰓呼吸する視線」は、2020年4月9日から6月26日を会期とし、半年以上前から企画が進み、2月には広報を開始、3月にはDMはがき・ポスターが納品され、順調に準備を進めていた。もちろん、2月初旬の時点で新型コロナウイルスによる影響はすでに懸念されていた。しかし、ここまで大きな事態に発展するとはその時は想像をしておらず、毎年のインフルエンザのように、一過性のものだろうと個人的に甘く捉えていた。だが、中国の一部地域から始まった感染が、世界各国、そして日本国内全域に拡大していくニュースを目にし、国内のテーマパークの一時休園と同時に国立博物館・美術館の休園も増えていく状況に、小規模施設とはいえ、当センター展覧会開催への不安が日に日に高まっていた。日々深刻化していく環境の中、授業開始延期などの慶應義塾の方針が発表されたことを機に、当センターでも来場者およびスタッフの安全を考慮して会期を1か月近く遅らせようという提案がなされ、SNSで周知、DMはがきには記載の会期が変更になったことを添えて送付をした。そして間もなくして4月上旬、政府の「緊急事態宣言」が東京都に出され、慶應義塾のキャンパス内立入禁止の判断がなされたことを受け、当センターでも更なる会期の変更を余儀なくされた。大学内施設という立場から、対面授業開始予定とされている6月1日を会期開始とすることになったが、依然感染拡大に拍車がかかる中、広報を進めるにも足踏みをしてしまう、そんな日々が続いた。
日本国内での様々なイベントが中止、我々のような文化施設の運営も休止を迫られる中、1つの光を知る。SNSなどのインターネットを利用した情報やコンテンツの配信である。普通に考えれば、美術館・博物館のような展示施設は、休館することで大きな損害を負うだろう。長期にわたり準備をしてきた担当者にとってはショックも大きいはずである。しかし、多くの美術館・博物館はSNSで閉館中の施設内を紹介し、「#エア博物館」「#自宅でミュージアム」「#museumfromhome」などのハッシュタグを付して、世界中人々がアートに触れる機会を増やしていたのだ。アートはこれまでの歴史の中でも幾度もの危機にさらされてきたが、どのような状況でも決して屈しない強さを感じる。そして、記録として後世にその恐ろしさを伝えてきたのだ。多くのミュージアムは「休館中」ではなく、インターネット上では24時間「開館中」なのである。我々も同じ気持ちで「何か発信できないか」そう考えるようになった。SNSなどのインターネットを活用して裾野を広げることは、将来的に自身の施設を知ってもらうチャンスにもなり得る。
個人的に以前から美術館・博物館を訪れることが趣味でもあり、当センターに届くチラシやDMを見て、企画に興味を持って足を運ぶことも多い。楽しみにしていた展覧会をこのような想定外の事態で直接見ることができない残念な気持ちはもちろんだが、文化施設のあの空間を訪れることができないことは加えて寂しい。毎度当センターの設営を見ていて、壁やライティング、空間そのものが展示内容であり、入口から展覧会なのだと実感させられる。いつかこの事態が収束したときに訪れる展覧会では、ネット上で間接的に出会ったアートに、会場で直接的に触れるという、新たな楽しみ方が広がるかもしれない。
2020年4月27日
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